宅配図書館について考えた

田中伸哉

 市立の図書館が6館体制から4館を廃止,2館体制にして,代わりに宅配によるサービスを行うという,清瀬市の事を聞いて,「生きるための図書館ー一人ひとりのために,竹内悊著」の「コラム図書館学の五法則」の一節を思い浮かべました。
 ランガナタンが「図書館学の五法則」を著したのは,1930年頃だったと思うが,その第4法則の「読者の時間を節約せよ」の一節にこんなことが解説されています。「例えば「書庫から本を運んでくる方法」から,公開書架方式の採用へ。その他諸々。読者一人ひとりを人間として重んじること(略)五法則全体の基調「一人ひとり,そしてみんな」ということを,その人にとってかけがえのない時間という観点から表現した」と。
 第一法則の「本は利用するためのものである」では,「使うために保存することへの宣言。図書館を人の集まりやすい所に建て,その開館日と開館時間とを増やし,館内の配置と設備・備品を利用者にとって使いやすいように考え,質問や相談に十分応じること,そして本のこととその利用の仕方をよく知る図書館員を配置すること」とも。
 日本の図書館では,今や当たり前のように公開書架方式を採用していますが,1950年に図書館法ができた頃は,殆どの図書館は閉架式が主だったでしょう。その後「中小レポート」,「市民の図書館」の流れの中,利用者に使いやすい開かれた身近な図書館を試行する中で広がって行きました。全域サービスで地域館・分館や移動図書館の活動が広がりを見せてきたのも同様でしょう。
 ランガナタンが提起した「豊かな公開書架」は,主題により本が集まり,自由に手にとって中を読みながら選ぶことができる。読者は自由に多様な意見や考え方に触れ,新たな発見を得られる場を得られる。目録の検索から読みたい本の主題を特定して宅配してもらうことは,ネット通販になれた人には,一見便利でスマートな作法だが,限界がある方法ではないでしょうか。公開書架の豊かさにくらべると対極にあるのではないのでは?
 本の宅配は,分館を閉鎖し読者を本や情報から遠ざけてしまう事の穴埋めに使ってしまっては,元も子もない。私には「五法則」以前への「おかしな先祖返り」としか思えないのです。
 1億円使えば,現状の図書館にカンフル剤を与えられたことだろうが,宅配に1億円使っても便利感,お得感しか残らないのではないか。現状の認識と予算の使い方の問題?とツラツラと考えました。