本の紹介:「黒塗り公文書」の闇を暴く

 本書は,「和歌山市民図書館」の新規移転開館における「CCCとの指定管理者選定疑惑」を柱に,「コモンの収奪」とも言える黒塗り事例も複数レポートされている。私たちの近傍でも,最近話題の「葛西臨海公園の改築」や「明治神宮外苑再開発」の事例も取り上げられている。
 また,都立高校の学校図書館の民間委託が,「ファミリー企業独占」という異常な形で進められていき頓挫した事例も詳述されている。
 開示請求や不服申立ての手続きにも触れられており,筆者がこれまで培ってきた実際の経験を知ることができ,今まで手続きを縁遠く感じていた人たちの第一歩になるのではないかと感じる。
 国会の勢力が一極集中し,「モリカケ問題」,「桜を見る会」などに関わる公文書が真実を語る力を封じられ,「閣議決定」の乱発,「官邸主導」による立憲主義の破壊は,行きつくところまで進んでいる。「官僚の忖度」,「天下り」という「官民癒着」の構造を生み「公」の倫理観や道徳的節度の欠如は,影響が広く地方自治体にも及んでいる中で,ニュースになるような大きな事件も起きている。
 公立図書館は「日本国憲法」の三大原理の中で「基本的人権の尊重」の屋台骨を担っている。また地方自治を根付かせていく存在である事も期待されている。地方自治体という限られたコミュニティで「当該市」のような事件がおきたら,住民は分断されないだろうか。公立図書館の存在は一体どうなってしまうのだろう。
 庶民のなけなしの収入から収める税金。本来的に考えられない使い方を独断で決定し,その経過も隠蔽され,益々富は「富める者」に集中し…,根っこの仕組みは同じである。その地域の図書館は一部の権力者のアクセサリーなのか。
 事件当事者とも言える関係者に対する,筆者の地道で丹念な取材にも驚き,頭が下がる。自分だったら逃げ出したくなるに違いない。
 「おわりに」まで読み進んで,少し光が見えたような気がしたのは,攻防の結果だけでなく,当事者への「強い共感や愛」が感じられたからだと思う。
 真実を希求する住民が,知りたいことの「情報開示」を役所に求めていく攻防を描くなかで,あらためて「公立図書館の管理運営と働く人」について考えさせられた。読み出すと止まれない迫真のルポルタージュである。

【連載】鈴木由美子の図書館エッセイ③

―――本と読書、民主主義、ジェンダーのことなど気ままに書いていきますーーー

3.中学1年、最高の学校図書館を利用できた日々

 『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)がアニメになると聞いた時、中学1年の時に学校図書館で借りた記憶が甦りました。「粉ミルクの秘密」 「油揚げを揚げる同級生」 「ガンダーラの仏像」など、この本を読んだ人なら忘れられない箇所がいくつもあるはずです。

この本を借りた場所は、私の経験した中で最高の学校図書館であったことも思い出しました。私は親の事情で何度も転校して育ち、小学校は4校、中学校は2校に通いました。その中で一番良い学校図書館があったのは、中学1年生の時期だけを過ごした兵庫県西宮市の中学校です。

まだ1960年代前半であったにも関わらず、その学校図書館は、本がものすごく多かった。広い部屋に何列も書架が並んでいる。大人と同じ文学全集、歴史書、科学書、百科事典、図鑑、画集が一杯。

クラス全員で同じ本を読めるように、55冊ほどのセットが各学年3タイトル、計9タイトル分揃えてある本棚もあります。こっちは中学生向きの物語や人生論でした。

いつも大勢の生徒が出入りし、貸出しカウンターには行列ができることもありました。カウンターに同じ先生がおられたので、図書館専任の人を配置していたのでしょう。生徒達は何やかやと図書館の先生に話しかけていました。図書館だからといって沈黙を強いる空間ではなく、おしゃべりしながら本を探す声や、調べ物をしているグループの声が聞こえます。

私はこの学校に通った1年間、いつも本を通学カバンに入れていました。本を返したら次の本を借りるという習慣を、この中学で身につけたのです。まさに「市民の図書館」の先取りでした。

ここで借りた沢山の本の中で、長く記憶に残った本が3冊あります。最初に書いた『君たちはどう生きるか』。モーパッサンの『女の一生』。そして下村湖人の『次郎物語』。

次郎物語は、厚い一冊に収録されていたので第5部まで読みました。第6部以降は作者の死で書かれなかったことを解説で知りました。成人した次郎が恩師と共に東京で私塾を育てたものの軍国主義の台頭でつぶされてしまうという第5部のストーリーを語りあえる人には、12歳のその時以後出会っていません。

また、この学校図書館は、授業と直結した調べ物学習を支えていました。校風として先生方が、生徒に自分で調べさせる教育を目指していたのだと思います。理科の宿題が出て、班単位で図書館に行き図鑑でリンゴやナシの品種を調べた記憶があります。

教科の中で、調べ物学習に一番熱心だったのは、意外にも保健体育の先生でした。アメリカで生まれたバレーボールの歴史を調べてこいという。バレーボールが他のスポーツと異なる特色を挙げろという。「ボール1つ、ロープ1本あればどこでもできる」」 「人数の増減ができる」」 「ルールが野球よりずっと簡単」 「技術的に特別な訓練は要らない」 「老若男女が一緒に楽しめる」 「上手な人と下手な人が混じっても大丈夫」等々、生徒の発言を聞いて黒板に書かれた文字が目に浮かびます。

生徒をよく図書館へ行かせ、調べ物をさせる別の先生は「ちゃんと調べてからモノを言え」と叱っていました。口の悪い先生でしたが、非常に大切なことを伝えてくれたように思えます。

21世紀に入ってからフィンランドの学力の高さが注目された時期がありました。学校の様子が報道されたのを見ると、やはり調べ物学習中心の教育でした。そして子どもも大人も、図書館の本を日本の3倍ほど借り出している国でした。

たった1年間しか通わず卒業もしなかったけれど、あの学校図書館のあった中学は、読んだり調べたりする暮らしの基礎を作ってくれた私の母校だと思えるのです。

私が体験したような、素晴らしい学校図書館が増えますように。そこで働く人が正当な待遇を受けますように。

「東京の図書館をもっとよくする会」出版物の案内

「東京の図書館をもっとよくする会」は以下の出版物を発行しています。

 価格はすべて600円(会員価格500円)です。

 それに加えて送料と振込手数料がかかります。

 10冊以上の注文の場合は値引き(価格の2割引き)を行います。

 お申込み・お問い合わせはこちら

「住民自治と民営化路線」(東京の図書館双書14)2020年7月刊 第22回東京の図書館を考える交流集会の白藤博行安達智則氏の講演 A5版42ページ 

「住民自治とは何か」(東京の図書館双書13)2019年2月刊 第23回東京の図書館をもっとよくする会総会の白藤博行氏の講演 A5版74ページ     

「地方自治と図書館指定管理」(東京の図書館双書12)2018年3月刊 第20回東京の図書館を考える交流集会の幸田雅治氏の講演 A5版68ページ

「“ツタヤ図書館”を追って見えたこと/ツタヤ図書館見聞記」(東京の図書館双書11)2018年3月刊 第22回東京の図書館をもっとよくする会の日向咲嗣氏の講演、鈴木由美子氏書き下ろし A5版67ページ     

「利用者から見た『指定管理者制度』」(東京の図書館双書10)2017年5月刊 第21回東京の図書館をもっとよくする会の鈴木由美子氏の講演、手嶋孝典・大澤正雄氏の講演も併録 A5版48ページ

「図書館というもの‐ランガナタンに学ぶ」(東京の図書館双書9)2016年2月刊 第18回東京の図書館を考える交流集会の竹内悊氏の講演 A5版43ページ

「規制緩和の進行と労働環境の変化」(東京の図書館双書8)2014年11月刊 第16回東京の図書館を考える交流集会の小林雅之氏の講演 A5版60ページ

「教育委員会制度をめぐる課題」(東京の図書館双書7)2014年11月刊 第19回東京の図書館をもっとよくする会総会の荒井文昭氏の講演 A5版 70ページ

⑨「図書館を支える市民の力-生涯学習見直しの視点から-」(東京の図書館双書6)2011年10月14日図書館大会第18分科会の中川幾郎氏の講演 Å5版44ぺージ   

「『私たちの図書館プラン』/荒川区の非常勤階層化の取り組み/都立学校司書委託の現場で起きていること」(東京の図書館双書5) 2012年5月刊 A5版 102ページ

「『官製ワーキングプア』をなくすために」(東京の図書館双書4)2011年5月刊 東京法律事務所・中川勝之弁護士の講演と各地からの発言、2010年12月東京の図書館を考える交流集会の記録。A5版 46ページ

「公立図書館の『無料原則』を考える/公共サービス基本法と全国の新たな取り組み」2010年5月刊 (塩見昇、2009年11月講演)(伊藤久雄、2010年3月学習会講演)の記録。A5版 82ページ 

品切れ

「図書館長のみた図書館の窓口業務委託」2006年5月刊 

「委託・指定管理と図書館に働く人たち」2009年5月刊 

☆図書館問題研究会事務所にも置いています。

 会員価格はなく、すべて600円となります。